「少年ジャンプ+」連載の『ファイアパンチ』で衝撃的なデビューを果たした藤本タツキ。2021年に発表された長編読切マンガ『ルックバック』では、作中の表現が物議を醸し、セリフの訂正がされたことでも話題となりました。
そんな藤本タツキの『チェンソーマン』は、累計発行部数1100万部を超える大人気マンガです。2019年から「少年ジャンプ」にて連載を開始し、2021年第1部の連載が終了しました。続く第2部の開始を今か今かと楽しみにしているファンも多いはず。筆者もその1人であり、この『チェンソーマン』をこよなく愛するファンです。
そんな『チェンソーマン』の魅力をぜひ多くの人に知ってほしく、今回はその愛すべきポイントを存分に紹介します。
『チェンソーマン』あらすじ
まずは『チェンソーマン』がどんな物語なのか紹介しましょう。
主人公のデンジはデビルハンターです。自殺した父親の借金を返すため、木を切り、自分の腎臓や右目を売り、契約したチェンソーの悪魔・ポチタの力を使いデビルハンターをしながら暮らしていました。
そんなある日、デンジが借金をしているヤクザがゾンビの悪魔と契約。ゾンビと化し、デンジに襲い掛かります。体を切り刻まれ殺されたデンジでしたが、ポチタがデンジの心臓となり復活することに。
チェンソーの悪魔となったデンジは、公安のデビルハンター・マキマからスカウトされます。人並みの生活を送る夢を果たすため、公安特異4課に所属。先輩のアキや相棒で魔人のパワーとともに共同生活をしながら、デビルハンターとして活躍するデンジの物語です。
この公安を舞台とした第1部・公安編はすでに完結を迎えています。第2部は高校生となったデンジを描く高校編ではないかとファンの間では予想されています。
愛すべきポイント1「主人公のキャラクター造形の秀逸さ」
『チェンソーマン』の主人公デンジは、考えられないほどの最低な生活を送っています。自分の臓器を売り、働いたお金もヤクザに巻き上げられ極貧生活のなかにいるデンジ。それでも文句ひとつ言わず、ささやかな夢を持ちながら悪魔のポチタと過ごしているデンジに、ある日、転機が訪れます。
公安のデビルハンターとなるデンジ。彼の夢は、人並みの生活を送るということ。そのためには危険を省みることなく、どんな状況でも戦うことを厭いません。そんな普通の夢がデンジにとってどんなに大きなことか。最初の設定が最悪であればあるほど、傍からみればたいしたこのない夢でも、デンジにとっては守るべき大切なことであることの説得力になります。
なんでもなさそうなことに真っ直ぐに向かっていく、自分の欲望に忠実な主人公はこの物語の魅力のひとつです。読者はまた、そんな最低生活から徐々に大切なものが増えていき、成長していくデンジの姿を見守ることに。だからこそ、物語が進むにつれ、デンジへの思い入れも増していきます。そんなキャラクター造形の秀逸さも『チェンソーマン』の愛すべきポイントです。
愛すべきポイント2「マンガの枠を超えた壮大な演出」
『チェンソーマン』作中で、一番驚き、感心したシーンがあります。それは、9巻に収録されている75~76話。世界中を不幸に貶めた「銃の悪魔」がデンジの憧れのマキマを狙うため、彼女のもとにやってくるシーンです。
「銃の悪魔」の挙動記録が描かれていきますが、その際、亡くなってしまった人々の名前がコマいっぱいに全て明記されるという演出が施されています。人々が殺されていく描写よりも名前を描くことの方がずっと心に響き、命の重みを感じ、やるせない気持ちでいっぱいになるのです。
同時に、作者の演出力に脱帽。壮大な物語をスクリーンで見た後のような圧倒的なインパクトの残る印象的なシーンとなっています。
愛すべきポイント3「画力へのこだわり」
『チェンソーマン』の作者である藤本タツキは美大出身です。学生時代からウェブコミック投稿サイト「新都社」に投稿を始め、美大在学中も図書館にこもってずっとクロッキー的な絵を描いていたとのこと。目標とするマンガ家に『無限の住人』の沙村広明を挙げています。
絵が上手くなりたいという欲求が強い藤本タツキですが、それは作品に対し説得力持ちたいからだといいます。自分の想いを作品に込めるために、上手くなければいけないと。
『チェンソーマン』では戦闘シーンも多く、悪魔や魔人など人間でない造形のものも多く登場します。迫力ある血しぶき、見たこともない異形のものたち。なかなか書き込みが大変な絵柄がばかりです。ホラー好きな作者だけあり、残虐描写も描いています。そんな残酷で異形な絵柄であっても、ごく普通に受け入れてしまう不思議な作品が『チェンソーマン』。
なぜなら、登場人物の描写も含め、この絵柄が作り上げる作品の世界観が素晴らしいからです。リアルな世界ではない架空の物語であっても、登場人物たちのストレートな感情は共感を呼び、畳みかけるようなストーリー展開も面白い。加えて、藤本の想う世界観を表現するための秀逸な絵柄が作品をさらに魅力的に仕上げています。
愛すべきポイント4「究極の愛を描いたお伽話」
男女の愛、親子の愛、家族の愛……愛の形はさまざま。『チェンソーマン』という作品の根底にあるのは、まさしく「愛」です。
壮絶な貧困のなか、生活してきた主人公デンジが求めるものは普通に生きるということですが、その先にあるのは人間の本来持つ「誰かに抱きしめてほしい(自己肯定)」という願い。作中は、おっぱいを触りたいやらキスしたいやらといった具合の表現になっていますが、デンジが求めているのは「愛される」ということなのはないかと思うのです。
作中に幾度となく登場する「抱きしめる」といった行動。大切な相棒ポチタを抱きしめるデンジの姿もそのひとつ。この「抱きしめる」ということが物語の真のテーマともいえます。それは「愛する、愛される」ということ。物語の終盤、デンジの最後の選択もこの「愛」に尽きると思っています。
すでに読んだことのある人もまだ読んだことのない人も、この「抱きしめる」ことを意識して読んでみてください。この作品が愛を描いていることがわかるはずです。「究極の愛を描いた大人のお伽話」。それが『チェンソーマン』なのです。
奇才・藤本タツキの秀作『チェンソーマン』
ここまで藤本タツキ原作の『チェンソーマン』の魅力について紹介してきました。第2部の連載はいまだ発表されていませんが、それとは別に嬉しい進捗も。
同じ「少年ジャンプ」で連載中のこれまた大人気マンガ『呪術廻戦』のアニメも担当したMAPPA制作で『チェンソーマン』もアニメ化されることが発表されています。
現在は、アニメ公式ページにて迫力満点のティザームービーを見ることができます。こちらも放送が待ち遠しい。マンガ第2部もアニメも世界中のファンが待っていることでしょう。